東京地方裁判所 昭和30年(行)108号 判決 1956年11月28日
原告 三菱殖産株式会社破産管財人 森良作 外一名
被告 国
訴訟代理人 津野茂治 外三名
主文
神田税務署長が昭和二十九年九月三十日附で三菱殖産株式会社に対してなした同年二月分源泉徴収所得税の納金額を本税額五一八、二〇〇円、加算税額一二九、五〇〇円とする旨の告知処分は、無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
一、請求の趣旨
主文第一、二項同旨の判決を求める。
二、請求の原因
(1) 三菱殖産株式会社(以下三菱殖産と略称する)は昭和二十四年六月二十九日納税積立金の取扱及び金融斡旋、金銭貸付業を目的として設立された株式会社であり、昭和二十六年四月以降はいわゆる株主相互金融をも営んでいたが、昭和二十九年十二月二十五日東京地方裁判所において破産の宣告を受け、原告らがその破産管財人に選任された。
(2) 神田税務署長は、三菱殖産の支払う株主優待金は所得税法第九条第一項第二号の配当に該当するから、同社は同法第三七条により源泉徴収の義務を負うとの見解の下に、昭和二十九年九月三十日附をもつて三菱殖産に対し、同会社が同年二月に支払うべき株主優待金についての源泉徴収所得税の本税額五一八、二〇〇円、加算税額一二九、五〇〇円を各納付すべき旨の源泉徴収所得税の告知処分をなした。
(3) しかし、三菱殖産の株主優待金は所得税法第九条第一項第二号所定の配当には該当しない。何故なら、同社のいわゆる株主相互金融における株主は商法上の株式を有していたものではなく、又同社では株主総会において株式配当を決議しておらず、そのいわゆる株主優待金は、配当とは本質的に異なるからである。従つて株主優待金を配当と解してなされた本件告知処分は重大かつ明白な誤りを犯したものであるから、当然無効のものである。即ち、
イ、三菱殖産は当初資本金五〇万円で発足し、昭和二十六年五月二十日に九五〇万円を増資し、その後昭和二十八年四月十九日迄に四回に亘つて発行する株式の総数を増加し、同年七月十六日迄に八〇〇万株を発行したが、何れの場合においても、増資分全部を同社代表取締役小池田熊太郎において引き受けた上払込を行い、直ちに三菱殖産から小池田に対して同額の金員を貸し付けたこととしたが、払込は一時の見せ金に過ぎず、会社の資産には実質上何らの増加もなく、全く仮装の増資にすぎなかつた。そして小池田に対する右の貸金の回収方法としては、三菱殖産は表面上小池田が有することになつていた同社の株式の譲渡の委託を受ける形式を採つた。即ち、株式譲受の斡旋を申し込む者があると、三菱殖産は株式額面相当額の小池田に対する貸付について弁済を受けると同時に、申込人に対して同額の金員を融通したこととし、一時払、月賦払又は日賦払の何れかの方法でこれを償還させ、右融通金を所定の条件により償還しない株主に対しては、通知を要せずに株主がその株主権を任意に放棄したものとみなし、株主としての資格を喪失させることができた。昭和二十八年九月七日以後は新株式の発行を公募の形式によつて行なつたが、三菱殖産はその公募株主に対しても額面金額の株式を交付する形式をとつた点のほかは、小池田に対する場合と全く同様に、そのいわゆる株式譲渡の斡旋を行なつて来た。
従つて、三菱殖産の増資並びに新株発行については、形式上株式の引受があつても、会社財産の内容はいわゆる株主に対する貸付金債権のみと言うことになり、しかも譲受人が償還を怠ると、三菱殖産は一方的に株主の資格を喪失させることができるのであるから、発行済株式に対応する資本額も常に変動するのであつて、このように資本額も確定せず当初から資本の充実しないような増資ないし新株発行ということは、商法上の概念としてはあり得べからざるものである。
のみならず、いわゆる株主相互金融における株主は真実株式を引き受けると言う意思を有せず、その真実の真意は三菱殖産に対して金員の貸付又は借入をすることにあつた。現に三菱殖産に対する破産申立も右にいわゆる株主によつてなされ、東京地方裁判所もこれを株主とは認めず「申立債権者を含めて約二万四千名の債権者に対して約四億円の債務を負担し、これが支払不能の財産状態であることは右破産事件の一件記録に徴して明白である」との判定の下に破産宣言をなし、次いで東京高等裁判所も右決定に対する抗告を棄却し、いわゆる株主も総てそのいわゆる株式払込金又は株式取得代金につき貸金債権として届出をしたのである。そして右の破産宣告の決定も、株主らの届出債権も、既に確定している。
かように、三菱殖産の株主相互金融におけるいわゆる株主の実体は単なる貸金債権者であつて、商法上の株主ではないから、法律上株式に対応する配当と云うことはあり得ないのである。
ロ、およそ株式会社における利益配当請求権は、当該会社の決算期において現実の会社財産が資本額を超えるものと認め、この超過財産を株主に配当することを株主総会において決議した時に始めて発生するものである。株主平等の原則から言つて、その配当は同種の株式については全く平等でなければならず、株主が会社から金員を借り受けているか否かによつて差別することは許されない。ところが三菱殖産の株主優待金債権はかかる配当請求権と異なり、株主相互金融における株主が契約上当然受け得べき株主相互金融による融資を受けないことに対し、約款に基いて当然に毎月発生するものである。即ち、三菱殖産の株主相互金融においては、株式を譲り受けた者がその譲受について会社から融通を受けた金員を償還し終つた時に、原則として会社から右株式額面金額の三倍を限度とする借入をすることができ、株主がその融資を受けない場合に限つて一定率の株主優待金の支払を受けることとされていた。中小企業の金融が非常に窮屈であつた当時においては、融資を受けられる権利は一個の財産であつたから、その権利の不行使についても代償が要求されたのである。
従つて株主優待金は会社の利益剰余金の有無に関係なく、株主総会の決議を経ることもなく、毎月一定の割合において支払われたのであるから、配当ではない。又融資請求権不行使の者にのみ支払われるのであるから、利息と解することもできない。
(4) 仮に右の主張が認められないとしても、三菱殖産は本件所得税につき源泉徴収の義務を負わないから、三菱殖産がこれを負うことを前提としてなした本件処分は当然無効である。
所得税法第三七条によると、利子所得及び配当所得については、利子、配当の支払をなす者は「その支払の際」に支払うべき金額に対し一定の税率を適用して算出した税額の所得税を徴収して政府に納付すべきこととされている。源泉徴収義務者は謂わば国家機関に代つて納税義務者からその納税すべき税金を便宜徴収し、これを国に納付するのであつて、自ら租税債務を負うものではない。故に源泉徴収義務者の義務は納税義務者の義務とは別個に考えられるべきであつて、納税義務者の義務は利子又は配当請求権が発生した時に成立するが、源泉徴収義務者の義務は右第三七条の明定するとおりその支払の際に徴収して政府に納付するに止まるのである。従つて源泉徴収義務者の支払うべきであつた利子又は配当の支払(又はこれと同視すべき行為)が行なわれないときは、源泉徴収義務と雖も納税義務者から税金を徴収し得るものでなく、従つて政府に納付すべき義務もない。
ところで三菱殖産は前記のとおり昭和二十九年十二月二十五日東京地方裁判所において破産宣告を受け、同決定は確定したのであるから、この時において同社は営業を廃止し、その総資産をもつて負債を弁済することとなつたのであるが、その資産負債の関係は、株主優待金を除く債務に対してすら資産は遙かに不足しているのであつて、株主優待金に対する支払は事実上絶対に不可能となつた。従つて株主優待金の支払は破産宣告の確定と共に全く行なわれないことに確定したものであり、三菱殖産は源泉徴収をなし得ないことになつたのである。そして昭和三十年九月十三日の債権調査期日において原告らは株主優待金債権に対し異議を述べたが、これに対し債権確定の訴が全く提起されなかつたので、これを配当から除外することとしたから、少くともこの時において、株主優待金についての源泉徴収義務の存在しないことが確定したと云うべきである。よつて本件告知処分は無効に帰したものである。
三、被告の答弁
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求める。
原告らの主張事実中、三菱殖産の設立に関する事実、その営業内容、同社が破産宣告を受けて原告らがその破産管財人に選任された事実、神田税務署長が原告らの主張するとおりの告知処分をした事実及び三菱殖産の行なつた株主相互金融の方法は、いずれも認めるが、その余の原告ら主張事実は全部不知である。
そもそも株主相互金融は、株主会社が自己の発行した株式の巧妙な操作によつて不特定多数の大衆から資金を吸収する企業方式として、昭和二十四年頃発案されたのであるが、以後この方式により金融業を営む株式会社が続出し、昭和二十五年頃はこの種の業者の資金総額は三億円程度であるといわれていたのが、昭和二十六年には五〇億円、昭和二十七年には二〇〇億円、昭和二十八年には三〇〇億円と推定される程の盛況を示した。
その業務内容を三菱殖産についてみると、同社が株主との間に適用するために制定した「三菱殖産株式会社相互金融約款」によれば、次のとおりである。
(一) 三菱殖産は、増資に係る株式の全部を代表取締役小池田熊太郎に引き受けさせ、その払込をさせる(この事実は原告らの主張するところである)。
(二) 三菱殖産の株主となることを希望する者は、株式を右小池田から譲り受けることの斡旋を同社に依頼する旨の申込書を同社に提出する。
(三) この場合
(イ) 代金の一時払をする株主には、その払込後直ちに株式を交付し、株主名簿に登録する。
(ロ) 代金を三菱殖産から借り入れ(これを融通金と称する)て一時払とし、融通金の返済は「譲渡株日(月)賦償還証書」を差し入れて月賦又は日賦で返済することもできる。
(四) 株主となつた者は、その希望により三菱殖産から一定限度以内の融資を受けることができる。これについては次、のような制限がある。
(イ) 融資金の限度は原則として株式額面の三倍とする。
(ロ) 融資は、三菱殖産が現況調査の上指定する期日迄に連帯保証人二名以上を定めて所定の借入書類を作成する等、所定の手続を完了した場合に始めて受け得る。
(五) 右の融資を受けなかつた株主は、融資を受けなかつた期間に応じて株主優待金を受ける。
以上のとおりであるが、神田税務署長は右のうち(五)の株主優待金を税法上株主に対する配当であると称し、これに対する昭和二十八年八月十五日、昭和二十九年三月二十五日、同年七月三十一日の三回に亘り、昭和二十七年一月から昭和二十八年十二月迄(但し昭和二十八年七月分及び八月分を除く)の源泉徴収所得税及び同加算税の課税をしたが、三菱殖産はこれに対し何ら異議を申し立てなかつたのみならず、昭和二十八年七月分及び八月分の支払優待金に対しては、合計六二四、七八七円を配当に対する源泉徴収所得税として自発的に納付したのであつて、その後行なわれた本件課税についても、三菱殖産は本訴提起に至る迄何らの異議をも申し立てたことがない。
原告らは税法上の配当の概念は商法上の配当と同一に解すべきことを前提とし、株主優待金は配当でないと力説するが、税法は一般私法とは異つた独立の目的を有するのであるから、税法上の用語が私法上の用語と同一である場合でも、その概念は税法独自の目的に合致するように解釈されなければならない。所得税法上の配当の概念も、所得税法の立法趣旨に従つてこれを解釈するときは、独り商法上の利益配当を意味するにとどまらず、広く社会の純資産の減少が出資者に利益を与える場合を指称するものと解すべきである。従つて、会社の純資産の減少が利益配当とならない場合は減資手続による資本の減少の形態をとる場合にのみあり得ることであるから、本件の場合のように株主が資本の払戻の手続によらないで会社の純資産を減少させることによつて利益を得る場合は、総て所得税法上の利益配当に該当するものと言わなければならない。
また原告は、所得税法第三七条は配当所得の支払の際源泉徴収を必要とする旨を規定しているのに拘らず、神田税務署長が未だ支払のないものに対して源泉徴収をすべきものとなしたのは違法であると主張するが、本件の場合には三菱殖産は現金で二、五九一、〇七四円の優待金を支払う代りに同額の同社の株式を交付したものであつて、これは税法上一種の支払に外ならないから、これに対して源泉徴収所得税を課税した本件告知処分は違法ではない。
以上のとおり本件決定は適法である。しかし仮に右決定にかしがあるとしても、重大かつ明白なものではなく、特に前記株主優待金の法律上の性質については、定款、出資約款、出資勧誘の広告宣伝等に表示されている実体的法律関係のほか、当事者の真意、経済的な意義等、百般の事情を考慮して始めて決定され得る事柄であるから、神田税務署長が前記の事実関係に基いてこれを所得税法上の利益の分配に該ると解したことは重大かつ明白な誤りとは云えず、仮に原告ら主張の解釈が正しいとしても、それは本件決定の取消原因たり得るにとどまり、無効原因となるものではない。
けだし、行政処分が絶対に無効である場合は、処分として始めから絶対に存在しない場合に限られるに拘らず、本件告知処分は行政処分としては始めから存在しているからである。
四、立証<省略>
理由
三菱殖産株式会社が昭和二十四年六月二十九日設立された株式会社であり、昭和二十六年四月以降はいわゆる株主相互金融を営業の一目的としていたこと、同社は昭和二十九年十二月二十五日東京地方裁判所において破産の宣告を受け、原告らがその破産管財人に選任されたこと、神田税務署長が昭和二十九年九月三十日附をもつて三菱殖産に対し、同社がその営業とするいわゆる株主相互金融の株主に対して同年二月に支払うべき株主優待金についての源泉徴収所但付税の本税額を五一八、二〇〇円、加算税額を一二九、五〇〇円とする旨の源泉徴収所得税の徴収告知をなしたこと、及び神田税務署長が右の告知処分をなした理由は、三菱殖産の支払う株主優待金が所得税法第九条第一項第二号の利益の配当に該当し、従つて同社は同法第三十七条により右の配当に対する所得税につき源泉徴収の業務を負うという点にあることは、いずれも当事者間に争いがない。そこで右の神田税務署長のなした行政処分につき原告らの主張するような無効原因があるか否かについて判断する。
先ず原告らは、三菱殖産の支払う株主優待金は所得税法第九条、第一項第二号所定の配当に該当しないと主張し、これに対して被告は、右にいわゆる配当とは商法上の配当に限らず、およそ法人の純資産の減少が出資者に利益を与える限り、かかる利益の授与は総て右法条にいう配当と解すべきであると主張する。しかし憲法第八四条が「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定し、いわゆる租税法律主義を宣明している以上、諸種の税法の条文の解釈が恣意にわたることは当然許されないのであつて、殊に配当という概念は商法上のものとして広く一般化しているのであるから、これを被告の主張するように広く解することは、少くも会社の配当に関する限りはとうてい許されないものと言わなければならない。のみならず、所得税法第九条第一項第二号は「法人から受ける利益若しくは利息の配当、剰余金の分配又は……」と規定しているのであつて、株式会社に関する限り、利益の配当とは商法第二九〇条第一項の規定する利益の配当を指称し、利息の配当とは同法第二九一条所定の利息の配当を意味し、それ以外の意味を有しないものと解すべきである。特に利息の配当の語は商法上株式会社のいわゆる建設利息の配当に関してのみ使用されている特殊な用語であつて、他に用例をみないから、「利益若しくは利息の配当」とは商法上の同一用語と全く同一の概念を意味するものというほかない。また、仮に「利益の配当」を被告の主張するように解するとすれば、右に謂う「剰余金の分配」もまた全く同一義に解し得ることとなり、両者を如何に区別するかは解釈する者の独断に委ねられるほかなく、かくては所得税法上の用語の解釈は混乱に陥るのみである。憲法を頂点に置く同一法体系の下においては、同一の用語は同一の意味に解するのが原則であつて、租税法律主義も、かる原則を前提としてのみ成り立ち得るものである。従つて、いずれの点からみても被告の右の主張は採用し難い。
ところで三菱殖産のいわゆる株主優待金が商法上の利益の配当に該らないことは、被告の敢て争わないところであり、神田税務署長が三菱殖産の株式の実体、同社の決算の状況及び株主総会の決議の有無を調査することは、いわゆる株主相互金融が隆盛を極めていた当時においては、必ずしも困難でない上に、調査の結果は前記破産宣告と同様の結論に至るべきことも十分に予測し得たものと言うことができる。
もつとも、原告らの主張する事実関係を総合すると、三菱殖産は不特定多数人から現金の消費寄託を受け、一方においてこれを運用して収益を得ると共に、他方寄託者中特定の条件に該当する者に対しては月二分の割合による利息を株主優待金名義で支払つたものと解する余地もあり得る。かく解するときは三菱殖産は銀行業務又はこれに類似する預金受入業務を行つたことに帰し、その株主優待金は正に所得税法第九条第一項第一号所定の預金の利子に該るものと言うことができる。原告らは、株主優待金は特定の条件に該当する者のみに対しその融資請求権不行使の対価として支払われるものであるから貸金の利子ではない旨主張するが、消費寄託において特定の条件を充たす寄託者にのみ利息を支払う契約をすることは消費寄託の性質を奮うことにはならない。従つて、前記の解釈が成り立つとすれば、神田税務署長は所得税法第九条第一項第一号と第二号との適用を誤つたに過ぎないことになり、しかも同法第三七条所定の源泉徴収の取扱については右両号は同一に取り扱われているから、本件告知処分のかしは明白重大なものとは称し得ないであろう。
しかしながら、同法第三七条は、利子所得又は配当所得の支払をなす者は、その支払の際、その支払うべき金額に対する所得税を徴収すべき旨を規定するところ、原告らは、三菱殖産が昭和二十九年二月に支払うべき本件株主優待金は未だ支払われていないと主張するのに対し、被告は、三菱殖産が同月分株主優待金として二、五九一、〇七四円を現金の支払に代えて同額の額面の株式を交付したのであつて、かかる株式の交付も税法上は一種の支払にほかならないと主張するのであるが、三菱殖産が被告の主張するような株主優待金の支払をした事実については、これに証すべき証拠は何ら顕れておらず、右支払事実の存在は本件源泉徴収所得税納付告知処分の有効要件であるから被告がその立証責任を負うものであり、右の立証のない以上、本件告知処分は右の支払がないにも拘らず三菱殖産を源泉徴収義務者として所得税法第四三条による強制徴収をしようとするものと言わなければならならない。
のみならず、原告らが三菱殖産の本件未払株主優待金に関する債権に対し昭和三十年九月十三日の債権調査期日において異議を述べたが、これに対し何らの債権確定に関する争訟も提起されなかつたので、右の債権を配当表から除外した旨の原告ら主張事実については、被告の明らかに争わないところであつて、右の事実によれば三菱殖産の昭和二十九年二月分株主優待金支払義務は既に消滅したと認められる。従つてこの点においても三菱殖産は現に源泉徴収義務を有しないものと言わなければならない。
従つて右何れの理由によつても三菱殖産は現に昭和二十九年二月分株主優待金に関する所得税源泉徴収義務を有しないことが明らかであるから、右義務の存在を前提としてなされた本件告知処分は重大かつ明白なかしを有する無効な行政処分と言わなければならない。
被告は、絶対に無効な行政処分とは処分として始めから絶対に存在しないものを謂うから、本件告知処分が課税処分として明らかに存在する以上、これを無効とは称し得ない旨を主張するが、被告のかかる解釈は行政処分の不存在と無効とを混同したものであつて、当裁判所の採用し得ないものである。
従つて神田税務署長のなした本件告知処分が無効であることの確認を求める本訴請求は結局理由があることに帰するから、これを認容し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条により敗訴当事者たる被告に負担させることとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 近藤完爾 入山実 大和勇美)